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分野別カテゴリー: まちづくり 国際交流

2026.07.28

インタビュー:アートを通して、鹿児島の日常を豊かに

 

海外生活で気づいた、アートのある暮らし

鹿児島市内で会社を営む菊永さんは、ここ数年、鹿児島の若手アーティストを個人的に支援する活動を続けている。そのきっかけは、17年ほど暮らした海外での日々にあったという。


「海外にいたときは、家の中にも街の中にも、アートがごく普通にありました。特別なものではなく、生活の一部という感じだったんです」と菊永さんは振り返る。帰国後、改めて鹿児島の街を歩いてみると、古い建物やギャラリーが少しずつ姿を消していることに気づいた。豊かな自然や独自の地形に恵まれた鹿児島に、日常のなかでアートに触れる機会が少なくなっていると感じていた。

 

若手アーティストとの出会い

活動の始まりは、「鹿児島のアーティストを紹介して欲しい」という声掛けからだった。さまざまなアーティストと出会い、作品を購入してきた菊永さん。そうした活動のなかで、県内の高校生による美術展にも足を運んだ。
会場を訪れた菊永さんは、賞の有無にとらわれず、自分の感性に合うと感じた作品を選び、一点十万円で購入した。「高校生にとって画材代よりも高く、ちょっとした自信になる金額を、と思ったんです」。


鹿児島でアートを仕事として続ける人は多くない。芸術大学に進む道は狭く、多くの若者は高校卒業とともに県外へ出て行ってしまう――活動を通じて、菊永さんはそうした現実に直面してきた。鹿児島を拠点に活動するアーティストを応援しているのも、こうした現状への思いがあるからだ。
菊永さんが大切にしているのは「賞」や「上手さ」ではない。購入した作品の作家を会社に招いて話を聞く機会もつくってきた。「どんな背景で、どんな人生を歩んできたのか。アートを通して自然と繋がりあう。アートを通して鹿児島を見ているのだと思う」。こうした関わりは、単なる作品の売買ではなく、人と人との信頼関係を積み重ねる時間でもあった。

 

鹿児島から広がる挑戦

菊永さんが力を入れている活動の一つが、世界を舞台に活動する鹿児島ゆかりのアーティストへの応援だ。鹿児島だけでは作品の市場は限られており、東京に出ても、日本ではまだまだ作家として生計を立てるのが難しい。そのため、アートを仕事として続けていくためには、いずれ広い世界に飛び出していく必要がある――菊永さんはそう考えている。

 

今年はヴェネチア・ビエンナーレに出展した鹿児島出身の作家を、現地まで応援に駆けつけた。「そういう場に行くと、また新しい人との出会いが生まれる。その連鎖がすごく好きなんです」。世界の第一線で挑戦する作家を後押しすることが、その後に続く若い世代の可能性を広げることにつながると考えているという。「その人たちが市場を引っ張っていってくれたらそれをきっかけに鹿児島の若いアーティストが続くのではないかと思います。アーティストと一緒に地域と世界を繋ぐためのプロジェクトも考えています。」

 

アートを通して心を豊かに

昨年12月、鹿児島市立美術館で行われたイルミネーション企画も、菊永さんが個人的な思いから協力した取り組みのひとつだ。複数の作家がそれぞれ趣向を凝らした光の作品を見に、約9000人が訪れたという。「電気をたくさん並べているだけのイルミネーションとは、意味も豊かさも違う。子どもたちが純粋に『きれい』と喜んでくれる、あの感じがまさにアートがまちに溶け込んでいる姿だと思うんです。これを実現できたのは市立美術館やギャラリー天地人さん、そして、作品を作ってくれたアーティストの皆さんが、一つのチームとなって取り組んだからです。」

 

菊永さんが一貫して大切にしているのは、アートを「特別なもの」にしないという姿勢だ。「権威的になったり、知っている人だけのものになったりすると、つまらなくなってしまう。日常のなかにふとアートがあることで、人は少し優しい気持ちになれるんじゃないかと思うんです」。

 

最後に、鹿児島のアーティストとそれを支える人々へメッセージを尋ねると、菊永さんはこう語った。「日常を豊かにする表現者も、世界を目指す表現者も、どちらも大切な存在です。高みを目指す人には思い切り挑戦してほしいし、僕自身もできる形で伴走していきたい。アートというのは日常を豊かにするものです。そういった想像力や思いやりが鹿児島には必要だと感じています」

 

アートを通じて鹿児島の日常を見つめ、まちと人をゆるやかにつなごうとするその姿勢は、これからの鹿児島の文化を考えるうえで、多くの示唆を与えてくれる。